
都市ガスは無臭なので、漏れたら気付くように人為的に臭いをつけます。この章では付臭剤の種類(TBM・THT・DMS・シクロヘキセン)、付臭設備、臭気濃度の測定方法までを扱います。
乙種・甲種兼用 / 全3節 / 学習目安: 30〜60分
💡 このページの読み方
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📍 はじめに
都市ガスのあの独特の「ガスの匂い」は、もともとついている匂いではありません。漏れた時に気付くために、わざわざ後から付け加えています。この章では、付臭剤の種類と設備、管理方法を整理します。
📚 テキスト解説
各節は次の構成で進みます。
– 🎯 一言で
– 📖 解説(乙種ベース)
– 🟦 甲種プラスα(必要な節のみ)
– ⚡ 焦点ポイント
– 📝 過去問のひっかけ例
5-1. 付臭剤の性質と種類(TBM・THT・DMS・シクロヘキセン)
重要度: ★ 乙A / 甲A
🎯 一言で
付臭の必要性・法規定、付臭剤に要求される性質、主な4種の付臭剤(TBM・THT・DMS・シクロヘキセン)の特性比較を理解する。
📖 解説(乙種ベース)
ガス漏れに気づくきっかけは、たいていあの独特の匂いだ。ところが都市ガスそのものは無臭で、放っておけば漏れても誰も気づけない。そこで、漏れたら鳴る防犯ブザーのように匂いを後から取り付ける。これが付臭であり、その必要性と法規定がこの節の出発点になる。
根拠はガス事業法の技省令22条の解釈例である。求められる水準は、空気中の混合容積比率が1,000分の1で臭気が確認できること。臭気濃度の測定は月1回以上行う。付臭剤濃度測定法で管理する場合の値は2,000倍以上だ。
ここでいう臭気濃度とは、試料ガスを無臭の空気で徐々に希釈し、感知できる最大の希釈倍数のことである。では、どんなガスにも付臭が要るのか。実は付臭免除の道が用意されている。
免除されるのは3つの場合だ。中圧以上のガス圧力による大口供給と、漏えい検知装置が設置されている低圧の大口供給。そして1,000分の1に希釈して感知できる臭気を、もともと持つガスである。
次に、付臭剤に備えるべき性質を見ていく。ばらばらの条件に見えるが、ねらいで束ねると3つに整理できる。
| ねらい | 付臭剤に備えるべき性質 |
|---|---|
| 確実に気づかせる | 生活臭と明確に区別でき、誰もがガス臭と認識できる警告臭/極めて低い濃度でも特有の臭気が認められること/嗅覚疲労を起こしにくいこと |
| 人にも設備にも害を与えない | 人間に有害でなく、毒性もないこと/ガスの供給系統を腐食しない・輸送管中で吸着・化学反応を起こさない(安定性)/完全に燃焼し、燃焼後は無害無臭であること |
| 現場で使える | 土壌透過性が高いこと/安価で入手容易なこと/嗅覚以外の簡易検知法があること |
出題者が狙うのは土壌透過性だ。要求されるのは「高いこと」であって、低いことではない。ここを反転させた選択肢が繰り返し出る。
準備が整った。主な付臭剤4種——TBM・THT・DMS・シクロヘキセン——を、臭い・硫黄含有量・分子量・沸点・水への溶けやすさで並べて比較する。
付臭剤の役割(無臭のガスに匂いをつける)| 付臭剤 | 臭い | 硫黄含有量 | 分子量 | 沸点 | 水に対する溶解度 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ①TBM(ターシャリーブチルメルカプタン) | 温泉のような臭い。認知閾値が最も低く、臭いのインパクトが強い | 35.5% | 90 | 64.4℃ | 最小(0.096%)→最も水に溶けにくい | 閾値:極小(極微量で臭う) |
| ②THT(テトラヒドロチオフェン) | 有機溶剤(シンナー)系のツンとした臭い | 36.4% | 88 | 121.7℃(最も高い) | − | 凝固点:−96.1℃ |
| ③DMS(ジメチルサルファイド) | 青海苔のような臭い | 最大(51.6%) | 62(最小) | 37.2℃(最も低い) | 最大(2.1%) | 土壌透過性:比較的高い。単独では使用せず、他の付臭剤と混合して使用 |
| ④シクロヘキセン(C₆H₁₀) | 接着剤・有機溶剤(シンナー)のような臭い | 0(硫黄を含まない唯一の付臭剤) | 82 | 83℃ | − | 土壌透過性:比較的高い |
表は縦に読むと種明かしになる。TBMは認知閾値が最も低く、だから最も臭いが強い。DMSは硫黄含有量が最大で水にも最も溶けやすいが、単独では使用せず他の付臭剤と混合して使用する。シクロヘキセンだけは硫黄を含まない——この一点が単独で問われる。
⚡ 焦点ポイント
TBM「最も臭いが強い(閾値が最も低い)・最も水に溶けにくい」は鉄板問題 / DMS「硫黄含有量最大・単独使用不可・水溶解度最大」はセットで暗記
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 【最頻出】 ・「硫黄含有量が最も高い」はDMS(51.6%)。TBMやTHTと混同しやすい ・「最も臭いが強い」=TBM(閾値が極小)。臭いの強さ=閾値の低さ ・「燃焼後は無害無臭」はすべての付臭剤の要件。シクロヘキセンも同様 ・管理値1,000倍(パネル法)と2,000倍(付臭剤濃度測定法)を混同しないこと
5-2. 付臭設備と付臭方式の比較
💡 図の見方:付臭剤はごく微量でも強烈に臭うため、設備を密閉した付臭室に収め、室内の空気が外へ押し出されないようにやや負圧に保つ、という設計の狙いを矢印の向きで示した図です。吸引した空気は活性炭で脱臭してから排出するか、ボイラー等の燃焼用空気に回します。活性炭は吸着剤が飽和すると臭いが素通りする「破過」を起こすので、定期交換が前提である点も押さえてください。
重要度: ★ 乙A / 甲A
🎯 一言で
付臭室の設置基準、付臭方式3種(液体注入・蒸発・液付臭)の原理・特徴・適用規模を比較して理解する。
📖 解説(乙種ベース)
付臭剤は、ごく微量でも強烈に臭う液体である。だから扱う設備そのものを閉じ込めておかないと、製造所の周囲が常時ガス臭くなってしまう。そこで付臭剤貯蔵タンク・受入設備・注入装置等は、密閉した付臭室内に設置することが望ましいとされる。
その付臭室はやや負圧にする。室内の空気が外へ押し出されず、外から吸い込まれる向きに保つためだ。換気で吸引した空気は活性炭で脱臭して排出するか、ボイラー等の燃焼用空気に利用する。
ただし活性炭は、永久に臭いを吸い続けてはくれない。吸着剤が限界に達すると、臭いが素通りして出ていく。これが活性炭層の破過であり、だからこそ定期的な活性炭交換が必要になる。
ここからが本題の付臭方式である。付臭剤をガスに混ぜる方法は、大きく3種に分かれる。①液体注入方式、②蒸発方式、③液付臭方式だ。液体のまま入れるか、蒸気にしてから混ぜるか、原料の液に入れてしまうか——入れ方の違いが、そのまま分類になっている。
付臭方式のイメージ(液体注入式/蒸発式)
付臭室はやや負圧に保つ 排気は活性炭で脱臭し破過に注意| 方式(分類) | 原理 | 処理能力 | 建設費 | 混合付臭剤 | 適用規模 |
|---|---|---|---|---|---|
| ①-a ポンプ注入方式(液体注入) | ダイヤフラムポンプ(小容量容積式往復ポンプ)で直接ガス中に注入。ガス量変動にポンプのストローク・回転数で対応→常に一定濃度を維持 | 中〜大 | 大 | 適 | 規模の大きい付臭設備に最適 |
| ①-b 滴下注入方式(液体注入) | ガス圧でバランスさせ、重力で付臭剤を滴下(または都市ガス/窒素で加圧)。注入量調整はニードル弁等 | 小〜中 | 中 | 適 | 手動式は精度が低い→流量変動の少ない小規模付臭設備向き |
| ②蒸発方式 | 蒸発した付臭剤をガス流に混合。代表形式:バイパス蒸発方式(導管にバイパスを設け、バイパスガスで付臭剤を飽和)。設備費は安い・動力不要。設置場所は圧力・温度変動が小さく、管内ガス流速が大きい場所が望ましい | 小 | 小 | 不適(注:バイパス蒸発方式は各成分の蒸気圧が異なり均一付臭が困難。ただし沸点が近い付臭剤の混合はこの限りでない)。単一成分の付臭剤に適している | 流量変動の少ない小規模向き |
| ③液付臭方式 | 原料LPGの液中に直接付臭液を注入。ガス流量に応じた付臭剤注入量の制御が不要→簡単 | − | − | − | 比較的小規模のLPG・エアー混合ガス製造所で採用 |
表を縦に読むと、方式選びの理屈が見えてくる。ポンプ注入方式は点滴のように一定量を送り続けられるため、ガス量が変動しても濃度を保てる。だから規模の大きい設備に向き、そのぶん建設費もかさむ。逆に蒸発方式は動力がいらず安いが、混ぜ物である混合付臭剤には向かない。
方式が決まれば、次は「狙いどおりに入っているか」の確認である。注入量の確認方法は方式ごとに違い、共通するのは付臭剤タンクの液位測定だ。
| 方式 | 付臭剤の注入量の確認方法 |
|---|---|
| ポンプ注入方式 | 流量計・ポンプストローク長/回転数による計量・付臭剤タンク液位測定 |
| 滴下注入方式 | 流量計・付臭剤タンク液位測定 |
| 蒸発方式 | 蒸発器にバイパスするバイパスラインガス量からの計量・付臭剤タンク液位測定 |
| 液付臭方式 | LPG量・注入付臭液量による計量 |
⚡ 焦点ポイント
「ポンプ注入=規模大・建設費大・混合付臭剤適」はセットで覚える / 「蒸発方式=混合付臭剤不適」は頻出引っ掛け(単一成分向き)
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 【最頻出】 ・蒸発方式は「動力不要・設備費安」だが「小規模限定・混合不適」の制約あり ・「バイパス蒸発方式は混合付臭剤に適する」は誤り(沸点が近い場合を除く) ・ポンプ注入と滴下注入はどちらも「液体注入方式」の一種。混同しないこと ・液付臭方式は「制御が不要」だが「ガス濃度管理は必要」
5-3. 臭気濃度の管理と測定方法
💡 図の見方:3つの測定法は「何を測れるか」で守備範囲が入れ子になっており、DMSまで届くのはFPD付ガスクロ法だけ、検知管法はTHTとTBMまで、THT測定機法はTHT専用、という関係をバッジの個数で並べた図です。名前に成分が入っている方法ほど守備範囲が狭い、と覚えると取り違えません。試験では「THT測定機法でTBMも測定できる」「検知管法でDMSを測定できる」がいずれも誤りとして出ます。
重要度: ★ 乙A / 甲A
🎯 一言で
臭気濃度の定義・管理値、パネル法(オドロメーター法・注射器法・におい袋法)と付臭剤濃度測定法(FPDガスクロ法・THT測定機法・検知管法)を理解する。
📖 解説(乙種ベース)
付臭は「入れて終わり」ではない。入れた匂いが薄すぎないか、逆に濃すぎないかを測り続ける必要がある。ここで使うものさしが臭気濃度だ。めんつゆを何倍まで薄めても味がわかるか——あの限界の倍数を、味でなく臭いでやると考えるとつかみやすい。
管理値は測り方によって変わる。パネル法による管理値は1,000倍以上、付臭剤濃度測定法による管理値は2,000倍以上である。後者が厳しいのは統計的バラツキを考慮しているからだ。数字だけ覚えると必ず取り違えるので、測り方とセットで押さえたい。
では、濃ければ濃いほど安全なのか。ここが直感への裏切りである。臭気が高すぎると、ガス器具の点火・消火時に出る未燃ガスをガス漏れと誤認してしまう。むろん臭気が低すぎると漏えいを検知しにくくなるので、高からず低からずが正解になる。
パネル法は、人の鼻で測る方法だ。試験ガスを3種の希釈法で順次希釈し、4名以上のパネル(判定者)が臭気の有無を判定する。判定は結局、「臭う/臭わない」の境目を探す作業になる。
その境目の出し方が感知希釈倍数である。臭気有り→臭気無し の境界の2倍数の平均値を取る。さらに各パネルの感知希釈倍数の平均値を切り捨てにより有効数字2桁で算出したものが、そのガスの臭気濃度だ。
希釈のやり方には3方式ある。①オドロメーター法は、一定流量の無臭空気流に試験ガスを希釈混合する装置(オドロメーター)で試料を作り、その希釈倍数から感知希釈倍数を求める。②注射器法は、試験ガスを採取用注射器にとり、希釈用注射器(容量200ml)に移して試料を作る。③におい袋法は、無臭の空気3リットルを入れたにおい袋に試験ガスを注射器で添加して試料を作る。
最後に計算例で流れを固めよう。あるパネルが500倍○ 1,000倍○ 2,000倍×と判定したなら、境界をはさむのは1,000倍と2,000倍。感知希釈倍数 = (2,000+1,000)/2 = 1,500となる。続いて4名の平均 = (3,000+750+1,500+3,000)/4 = 2,062.5、これを有効数字2桁に切り捨てて2,000が答えだ。
なお、機械で測る付臭剤濃度測定法——FPD付ガスクロ法・THT測定機法・検知管法——は、このあとまとめて扱う。
鼻で測るパネル法に対し、機械で成分そのものを測るのが付臭剤濃度測定法である。適用できるのは、THT・TBM・DMS等の有機硫黄化合物を含む付臭剤に添加したガスだ。この適用対象そのものが、出題の切り口になる。
方法は3つあり、違いは「何を測れるか」に出る。ここが出題者の狙い目だ。
FPD付ガスクロ・THT測定機・検知管 測れる成分の違い| 方法 | 原理 | 測定付臭剤成分 |
|---|---|---|
| ①FPD付ガスクロマトグラフ法 | FPD(炎光光度検出器)を使用:硫黄化合物・リン化合物に選択的 | TBM・THT・DMS等の有機硫黄化合物 |
| ②THT測定機法 | THTのヨウ素錯体が紫外光(308nm)に特有の吸収を示す性質を利用し、紫外分光光度法により濃度を測定 | THT のみ |
| ③検知管法 | 検知剤が充填された検知管に一定量の試験ガスを通し、検知剤の変色長さから濃度を求める | THT・TBM |
勝負どころは表の右端である。名前に成分が入っているTHT測定機法はTHT専用、検知管法はTHTとTBMまで、FPD付ガスクロ法だけがDMSまで届く。なお検知管は、内径2〜4mmの細いガラス管に検知剤を一様な密度で充填・固定したものである。
臭気濃度の考え方(感知できる最大の希釈倍数)⚡ 焦点ポイント
管理値の数値「パネル法1,000倍/付臭剤濃度測定法2,000倍」は必須暗記 / 「FPD付ガスクロ=TBM・THT・DMS測定可」「THT測定機法=THT専用」の対比が頻出
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 【最頻出】 ・「臭気濃度が高いほど安全」は誤り。高すぎるとガス漏れと誤認のリスクあり ・THT測定機法はTHTのみ測定可能。TBM・DMSは測定できない ・検知管法はDMSを測定できない(THTとTBMのみ) ・パネル法の有効数字は「2桁」で「切り捨て」。切り上げ・四捨五入ではない ・付臭剤濃度測定法の管理値2,000倍は「統計的バラツキ」を考慮した値
🔢 製造の重要数値・設備の整理
付臭剤4種の比較:
| 付臭剤 | 主成分 | 特徴 |
|---|---|---|
| TBM | t-ブチルメルカプタン | 強い臭気、燃焼で硫化物 |
| THT | テトラヒドロチオフェン | 持続性、安定性 |
| DMS | ジメチルサルファイド | 補助的に使用 |
| シクロヘキセン | C6H10 | 硫黄含まず、燃料電池向け |
付臭の主要指標:
– 法令上の臭気濃度: 1/1000 倍に薄めても臭気を感じる濃度
– 付臭量: 通常 約 5〜10 mg/m³
– 検知限界: 嗅覚パネルで判定
付臭設備の方式:
– 滴下式: 一定量を滴下
– 蒸発式: 自然蒸発
– ポンプ式: 圧入(主流)
製造科目では、設備名・型式・運転条件の数値・原料の物性値の組み合わせで誤答が作られます。本章で出てきた数値・設備名を一覧で整理しておくと、選択肢の引っかけに気付きやすくなります。
🗒️ 3分で復習(章末まとめ)
🎯 全節 一言まとめ
- 節5-1 付臭剤の性質と種類(TBM・THT・DMS・シクロヘキセン): 付臭の必要性・法規定、付臭剤に要求される性質、主な4種の付臭剤(TBM・THT・DMS・シクロヘキセン)の特性比較を理解する。
- 節5-2 付臭設備と付臭方式の比較: 付臭室の設置基準、付臭方式3種(液体注入・蒸発・液付臭)の原理・特徴・適用規模を比較して理解する。
- 節5-3 臭気濃度の管理と測定方法: 臭気濃度の定義・管理値、パネル法(オドロメーター法・注射器法・におい袋法)と付臭剤濃度測定法(FPDガスクロ法・THT測定機法・検知管法)を理解する。
⚡ 全節 焦点ポイント
- 節5-1: TBM「最も臭いが強い(閾値が最も低い)・最も水に溶けにくい」は鉄板問題 / DMS「硫黄含有量最大・単独使用不可・水溶解度最大」はセットで暗記
- 節5-2: 「ポンプ注入=規模大・建設費大・混合付臭剤適」はセットで覚える / 「蒸発方式=混合付臭剤不適」は頻出引っ掛け(単一成分向き)
- 節5-3: 管理値の数値「パネル法1,000倍/付臭剤濃度測定法2,000倍」は必須暗記 / 「FPD付ガスクロ=TBM・THT・DMS測定可」「THT測定機法=THT専用」の対比が頻出
📝 一問一答(過去問ランダム)
記述が正しいか誤りかを判定。答え・理由・出典が出ます。
いま、学習で困っていることを教えてください
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