
熱と仕事の関係を扱う章です。第1章で学んだPV=nRTを前提に、熱力学第一法則・内部エネルギー・エンタルピー、反応熱、熱容量、気体の状態変化(等温・断熱・ポリトロープ)、ジュール・トムソン効果、第二法則とエントロピー、可逆/不可逆過程、カルノーサイクル、ヒートポンプ、自由エネルギー、第三法則までを順番に学びます。
乙種・甲種兼用 / 全17節 / 学習目安: 60〜90分
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📍 はじめに
熱と仕事は同じエネルギーの2つの顔です。お湯を沸かすと熱が水蒸気を膨張させて仕事をする(=蒸気機関の原理)し、自転車のブレーキは仕事(摩擦)を熱に変えます。この章では、その変換の規則と限界を扱います。
📚 テキスト解説
各節は次の構成で進みます。
– 🎯 一言で
– 📖 解説(乙種ベース)
– 🟦 甲種プラスα(必要な節のみ)
– ⚡ 焦点ポイント
– 📝 過去問のひっかけ例
📑 この章の目次(全17節)
1. 系と状態量(孤立系・閉鎖系・開放系)
重要度: 乙C / 甲C
🎯 一言で
熱力学が扱う「系」の3分類と、状態量(経路によらず現状態だけで決まる量)の概念を押さえる
📖 解説(乙種ベース)
熱いお茶を魔法瓶に入れて栓をする——中のお茶は、外と熱も物質もやりとりできない。熱力学では、こうして注目する対象を「系」、その外側を「外界(外部)」と呼び、外界との間で何を交換できるかで系を3つに分ける。魔法瓶のように、エネルギー(熱・仕事)も物質も一切交換しないのが孤立系だ。
では、栓を金属にして熱だけは通るようにしたら? それが閉鎖系——エネルギーは交換できるが物質は出入りしない。さらに栓を開ければ開放系で、エネルギーも物質も自由に出入りする。この3つの定義は選択肢として丸ごと出題されることがあり、下の表の○×の組合せ(孤立=両方×、閉鎖=エネルギーのみ○、開放=両方○)がそのまま得点になる。
系の3分類(孤立系・閉鎖系・開放系)| 系の種類 | エネルギー交換(熱・仕事) | 物質交換 |
|---|---|---|
| 孤立系 | ×(一切交換しない) | ×(一切交換しない) |
| 閉鎖系 | ○(交換できる) | ×(出入りしない) |
| 開放系 | ○(交換できる) | ○(交換できる) |
もうひとつの主役が状態量だ。系が平衡状態にあるとき、その「今の状態だけ」で一意に決まる量のこと。始点と終点が同じなら、経路が違っても値が同じになるのが特徴だ。代表的な状態量は温度T、圧力P、体積V、内部エネルギーU、エンタルピーH、エントロピーS。
一方、熱Qや仕事Wは経路関数——同じ始点・終点でも経路によって値が変わる。出題者が毎年狙うのは「エントロピーは状態量か、経路関数か」の一点。答えは状態量。ここさえ押さえれば確実に1問拾える。
⚡ 焦点ポイント
「エントロピーは状態量か、経路関数か?」は超頻出の正誤問題(→状態量が正解)。 / 孤立系・閉鎖系・開放系の定義は選択問題の選択肢として丸ごと出題されることがある。
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 【最頻出】 「エントロピー変化は経路に依存する」→ ×(状態量なので経路によらない)。R07-Q05で正にこの引っ掛けが出た。
- 「孤立系」「閉鎖系」「開放系」のいずれかが他の用語と入れ替えられる(類似名称の混同)
2. 熱力学第一法則と仕事
重要度: ★ 乙A / 甲C
🎯 一言で
エネルギー保存則。ΔU = Q − W(吸収熱 − 外部への仕事)。定圧仕事 W = P(V₂−V₁)
📖 解説(乙種ベース)
お金の出入りを家計簿につけるように、エネルギーの出入りにも帳簿がある。それが熱力学第一法則——「エネルギー保存則」をあらゆる変化に拡張したものだ。系が熱Qを受け取り、外部への仕事Wを支払えば、手元に残るのはその差額。それが内部エネルギーの変化量ΔUになる。
符号の向きに注意してほしい。Qは「吸収した熱が正」、Wは「外部にした仕事が正」——参考書によって符号の定義が異なるため、出題者はここを狙ってくる。ピストン付きシリンダーの気体が膨張して外へ押し出せばWは正、というイメージで固定し、問題文の定義を確認する習慣をつけよう。
では仕事はどう計算するか。圧力Pが一定のとき(定圧変化)、気体が外部にする仕事はW = P × (V₂ − V₁) = P × ΔV。定積(定容)変化では体積変化がゼロなのでW = 0、よってΔU = Q——加えた熱がそのまま内部エネルギーになる。「定積変化では外部への仕事はゼロである」は毎年出る定番の正文だ。
この帳簿の帰結がもうひとつ。第一種永久機関(外部エネルギーなしで仕事し続ける機関)は不可能——これが第一法則の意味だ。
熱力学第一法則のエネルギー収支⚡ 焦点ポイント
乙種の計算問題頻出パターン:定積加熱(W=0 → Q=ΔU=mC_v ΔT)。 / 「定積変化では外部への仕事はゼロである」は毎年出る正誤問題の定番表現。
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 【近年トレンド】 Qの符号は「系が吸収した熱が正」、Wの符号は「系が外部にした仕事が正」。参考書によって符号定義が異なるので問題文の定義を確認する習慣をつける。
- 乙種の計算問題頻出パターン:定積加熱(W=0 → Q=ΔU=mC_v ΔT)
- 「定積変化では外部への仕事はゼロである」は毎年出る正誤問題の定番表現
3. 内部エネルギー
重要度: 乙C / 甲C
🎯 一言で
系が保有するエネルギーの総量。状態量であり、温度・圧力の関数。変化量 ΔU = Q − W
📖 解説(乙種ベース)
ダムの貯水量は、どの川からどう流れ込んできたかに関係なく「いま貯まっている量」だけで決まる。内部エネルギーUもこれと同じ状態量——今の温度・圧力・体積だけで決まり、どの経路をたどってきたかは関係ない。中身は、系を構成する分子の運動エネルギーと位置エネルギーの総和。速度や高さ(巨視的運動)とは無関係に、分子レベルの「熱的エネルギー」だけを指す。
では理想気体ではどうなるか。分子間力ゼロの仮定により位置エネルギーの寄与が消えるため、内部エネルギーは温度のみの関数になる(圧力・体積に依存しない)。「温度が同じなら内部エネルギーも同じ」——この一文が、後の等温変化(節7)の伏線になる。
定積(定容)加熱では外部への仕事がないためQ = ΔU。加えた熱がすべて内部エネルギーの増加に使われ、温度が上昇する。化学反応が定積条件(密閉容器)で起こるときも、反応熱 = 内部エネルギーの変化量ΔUだ。出題者の手口は条件外し——「内部エネルギーの変化は吸収した熱に等しい」が成り立つのは定積のときだけ。定圧ではW≠0なのでΔU≠Qになる。
⚡ 焦点ポイント
「内部エネルギーは状態量」「経路によらない」は正誤問題の頻出文言。 / 「定積変化では Q = ΔU」の関係を素早く使えるように。
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 「内部エネルギーの変化は吸収した熱に等しい」→ 定積変化のみで成立。定圧変化では W≠0 なので ΔU ≠ Q。
- 「内部エネルギーは状態量」「経路によらない」は正誤問題の頻出文言
- 「定積変化では Q = ΔU」の関係を素早く使えるように
4. エンタルピー
💡 図の見方:エンタルピーは内部エネルギーUに「場所代」PVを足した量だという内訳と、加えた熱Qがどちらの量と等しくなるかの条件を並べた図。定圧ならQ=ΔH、定積ならQ=ΔU。出題者はこの条件をすり替えてくるので、まず定圧か定積かを確かめてから式を選ぶ。
重要度: 乙C / 甲C
🎯 一言で
H = U + PV。定圧変化での熱の出入り=エンタルピー変化。化学反応(大気圧下)に便利
📖 解説(乙種ベース)
通販の支払いが「本体価格+送料」で決まるように、定圧の世界の熱勘定は「中身+場所代」で数える。エンタルピーHとは、内部エネルギーUに、体積Vの空間を圧力Pのもとで確保するための「場所代」PVを足した量だ。
なぜこんな量をわざわざ作るのか。大気圧下での反応(燃焼、蒸発など)は定圧変化が多く、定圧変化では系に加えた熱Qがエンタルピーの増加量に等しくなるからだ。Q = ΔH = ΔU + PΔV(定圧の場合)——「加えた熱 = ΔH」と直接対応させられる。この便利さが、化学の世界でΔHが主役になっている理由である。
定圧と定積の橋渡しをするのがΔH = ΔU + Δn・RT(Δnは反応前後のモル数変化、Rは気体定数)。これにより定容燃焼熱(ΔU)と定圧燃焼熱(ΔH)を相互変換できる。出題者は「定圧ではQ = ΔH、定積ではQ = ΔU」の条件をすり替えてくる——どちらの条件かを見極めてから式を選ぼう。
🟦 甲種プラスα
甲種では ΔH = ΔU + Δn・RT の計算問題が出る(例:CO の燃焼熱変換)
H=U+PVの内訳と、定圧・定積で熱がどちらに等しいか⚡ 焦点ポイント
「定圧加熱では供給熱 = エンタルピー増加量」は正誤問題の定番文言。 / 甲種では ΔH = ΔU + Δn・RT の計算問題が出る(例:CO の燃焼熱変換)。
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 「定圧では Q = ΔH」「定積では Q = ΔU」——条件(定圧 or 定積)を見極めてから使う式を選ぶ。
5. 反応熱・ヘスの法則
重要度: 乙C / 🟦 甲B
🎯 一言で
反応熱は経路によらず始状態と終状態だけで決まる(ヘスの法則)。温度依存性あり(キルヒホッフ)
📖 解説(乙種ベース)
山頂まで、急な直登ルートで登っても、ゆるやかな迂回ルートで登っても、登った標高差は同じ——出発点と山頂の高さだけで決まるからだ。化学反応の反応熱もこれと同じで、反応の始状態と終状態だけで決まり、途中の経路(段階)には依存しない。これがヘスの法則(総熱量保存の法則)だ。種明かしをすれば、エンタルピーが状態量だから——始状態と終状態が決まればΔHは一意に定まる。
用語も整理しておこう。化学反応では熱が放出・吸収される(発熱反応・吸熱反応)。燃焼熱は物質1 molが完全燃焼したときの反応熱、生成熱は化合物1 molが単体から生成する反応熱だ。
では「反応熱は温度によらず一定」と言えるか? 言えない——ここが最頻出の引っかけだ。反応熱は反応温度によって変化する(キルヒホッフの法則)。ΔH(T₂) = ΔH(T₁) + ΔCp × (T₂ − T₁)(ΔCp:生成系と反応系の定圧モル熱容量の差)で補正する。
ヘスの法則「経路によらない」とキルヒホッフ「温度によって変わる」は矛盾しない——ヘスの法則は同一温度での話だからだ。出題者は「経路によらない」を「温度によらない」にすり替えて仕掛けてくる。
🟦 甲種プラスα
甲種では定積→定圧の燃焼熱変換計算(ΔH=ΔU+ΔnRT)が必ず出る
ヘスの法則(経路によらない反応熱)⚡ 焦点ポイント
「反応熱は経路によらない(ヘスの法則)」→ ○ / 「反応熱は温度によらず一定」→ × (キルヒホッフで変化する)
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 【近年トレンド】 「ヘスの法則=どんな条件でも反応熱は一定」ではない。あくまで同温・同圧での話。温度が変わればキルヒホッフの法則が必要。
- 「反応熱は経路によらない(ヘスの法則)」→ ○
- 「反応熱は温度によらず一定」→ × (キルヒホッフで変化する)
6. 熱容量(Cp・Cv・比熱比γ)
💡 図の見方:定積では体積が変わらず加えた熱がすべて温度上昇に使われるのに対し、定圧では気体が膨張して外へ仕事もするため余分に熱が必要になることを、固定ピストンと可動ピストンの対比で示した図。だから理想気体では常にCp>Cv(Cp=Cv+R)であり、「定圧モル熱容量は定積モル熱容量より常に大きい」は毎年出る正文。
重要度: ★ 乙A / 甲A
🎯 一言で
Cp > Cv(常に成立)、Cp = Cv + R(理想気体)、γ = Cp/Cv(比熱比・断熱指数)。乙・甲 最重要
📖 解説(乙種ベース)
同じ1 Kだけ温度を上げるのに、必要な熱の量は「加熱の条件」で変わる——ここがこの節の核心だ。物質の温度を1 K上昇させるのに必要な熱量を熱容量、1 molあたりの熱容量をモル熱容量(モル比熱)という。
気体には2種類の熱容量がある。体積一定で加熱するCv(定積モル熱容量)は、膨張せず全熱量が温度上昇に使われる。一方、圧力一定で加熱するCp(定圧モル熱容量)は、気体が膨張して外へ仕事もするため、その分だけ多くの熱が必要になる。だから理想気体では次の関係が成り立ち、常にCp > Cv——「定圧モル熱容量は定積モル熱容量より常に大きい」は毎年出る正文だ。
2つの比が比熱比(断熱指数)γ = Cp / Cv。値は分子の形で決まるので、対比は表で覚えるのが早い。
定積加熱と定圧加熱(Cp>Cvの理由)| 気体の種類 | γの目安 |
|---|---|
| 単原子気体(He など) | γ ≈ 1.67 |
| 2原子気体(O₂、N₂、H₂ など) | γ ≈ 1.40 |
| 3原子以上の多原子気体(CO₂、CH₄ など) | γ ≈ 1.3(多原子ほど小さい) |
加熱量の計算はQ = m × C × ΔT(m:質量[kg]、C:比熱容量[kJ/(kg·K)])、またはQ = n × Cp × ΔT(定圧)/n × Cv × ΔT(定積)。出題者の狙いはCpとCvの取り違えだ——問題文の「定圧」「断熱容器(定積)」の一語を確認してから式を選ぼう。
⚡ 焦点ポイント
「定圧モル熱容量は定積モル熱容量より常に大きい」は毎年出る正誤問題。 / 定積加熱の計算:Q = mCvΔT → ΔT = Q/(mCv) の変形が最頻出。
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 【近年トレンド】 Cp と Cv の使い分けを誤らないこと:定圧加熱 → Cp、定積加熱 → Cv。問題文の「定圧」「断熱容器(定積)」の語句を必ず確認する。
7. 等温変化
💡 図の見方:等温変化では温度が一定でも熱は出入りしている——理想気体では内部エネルギーが変わらないので、吸収した熱がそのまま仕事に変わる(Q=W)。熱の出入りがゼロなのは右の断熱のほうで、「等温=熱の出入りゼロ」と読ませる選択肢が定番の引っかけ。
重要度: 乙C / 🟦 甲B
🎯 一言で
温度一定 → PV=一定(ボイル則)。理想気体の内部エネルギー変化ゼロ → Q=W(熱がすべて仕事に)
📖 解説(乙種ベース)
等温変化とは、温度Tを一定に保ちながら状態を変化させるプロセスだ。ここで節3の伏線が回収される——理想気体の内部エネルギーは温度のみの関数だから、温度が一定なら内部エネルギーも変化しない(ΔU = 0)。
すると熱力学第一法則ΔU = Q − WにΔU = 0を代入して、Q = W。系が吸収した熱はすべて外部への仕事に変換される。「温度が変わらないのだから熱の出入りもないはず」と思ったら、それが出題者の思うつぼだ。等温膨張では熱を吸収し続けながら、その全額を仕事として支払っている。「熱の出入りゼロ」は断熱(次節)であって等温ではない——この混同が定番の引っかけになる。
PVの関係はPV = 一定(ボイルの法則と同じ)。等温変化での仕事(等温膨張)は次の式で求める。
エンタルピーはどうか。等温ではPVが一定、Uも不変なので、H = U + PVも不変(ΔH = 0)だ。
🟦 甲種プラスα
甲種では W = nRT ln(V₂/V₁) の計算問題が出る
等温変化と断熱変化の違い:熱の出入りがゼロなのはどちら⚡ 焦点ポイント
「等温変化では内部エネルギーは変化しない(理想気体)」は正誤問題の定番。 / 「等温下での加熱は全て外部への仕事に使われる」という表現も頻出。
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 「等温 = 熱の出入りゼロ」は間違い。温度が変わらなくても熱の出入りはある(例:等温膨張では熱を吸収して仕事をする)。「断熱 = 熱の出入りゼロ」と混同しないこと。
8. 断熱変化
重要度: 乙B / 甲B
🎯 一言で
熱の出入りゼロ(Q=0)。PVγ=一定。膨張で温度低下、圧縮で温度上昇。断熱指数γが鍵
📖 解説(乙種ベース)
自転車の空気入れを勢いよく押し込むと、筒の先が熱くなる。熱を加えていないのに、なぜ温度が上がるのか。これが断熱変化——系と外界の間で熱のやりとりが一切ない変化(Q = 0)だ。
種明かしは熱力学第一法則にある。Q = 0を代入するとΔU = −W。断熱圧縮では外部からなされた仕事が内部エネルギーになる→温度が上がる。逆に断熱膨張では、系が外部に仕事をする分だけ内部エネルギーが減る→温度が下がる。「断熱膨張→温度低下、断熱圧縮→温度上昇」は毎年出る。
P–V線図上では、断熱変化(PV^γ = 一定)は等温変化(PV = 一定)よりも急な曲線になる。同じ状態から膨張させて同じ体積で比べると、断熱の方が圧力の低下が大きい——この曲線の上下関係の取り違えを出題者は狙ってくる。もうひとつ、「断熱 = 熱力学的に孤立」と混同しないこと。熱の出入りはゼロでも、仕事のやりとりはあるのだ。
計算で使う関係は2つ。断熱変化での仕事はW = Cv(T₁ − T₂)(断熱膨張では T₂ < T₁ なので W > 0)。温度と体積の関係はT₂ = T₁ × (V₁/V₂)^(γ−1)だ。
🟦 甲種プラスα
甲種計算:断熱圧縮後の温度を求める問題(T₂ = T₁(V₁/V₂)^(γ-1))
等温変化と断熱変化のP-V図比較⚡ 焦点ポイント
「断熱膨張 → 温度低下」「断熱圧縮 → 温度上昇」は毎年出る正誤問題。 / PVγ = 一定 の式形と、等温(PV=一定)との区別を P–V 線図で確認しておく。
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 断熱変化を「熱力学的に孤立している」と混同しないこと。断熱 = 熱の出入りゼロだが、仕事のやりとりはある。また、断熱膨張での圧力低下は等温膨張より大きい(グラフの傾きがきつい)。
9. ポリトロープ変化
💡 図の見方:ポリトロープ指数nを0→1→γ→∞と回すと、定圧・等温・断熱・定積がすべて特殊ケースとして現れることをP-V線図の4本の線で示した図。P-V線図上ではnが大きいほど傾きが急(断熱>ポリトロープ>等温)で、出題者は「n=1は等温、n=γは断熱」の対応をずらした選択肢を作ってくるのでこの並びごと覚えるのが最速。
重要度: 乙C / 甲C
🎯 一言で
PVⁿ=一定(1
📖 解説(乙種ベース)
実際の気体変化は、完全な等温でも完全な断熱でもない。では、その中間はどう表すか。答えが一般式PVⁿ = 一定で表されるポリトロープ変化だ。指数nをつまみのように回すと、これまで学んだ変化がすべて特殊ケースとして現れる。
ポリトロープ変化のP-V線図(nの値と変化の種類)| nの値 | 変化の種類 |
|---|---|
| n = 0 | P = 一定(定圧変化) |
| n = 1 | PV = 一定(等温変化) |
| n = γ | PVγ = 一定(断熱変化) |
| n = ∞ | V = 一定(定積変化) |
| 1 < n < γ | ポリトロープ変化(実際の圧縮機などに近い) |
P–V線図上ではnが大きいほど傾きが急になる(断熱 > ポリトロープ > 等温)。出題者は「n = 1は等温、n = γは断熱」の対応をずらした選択肢を作ってくる——上の表を丸ごと覚えれば、この型の問題は数秒で片づく。なお、nは整数だけでなく実数値をとる点も押さえておこう。
🟦 甲種プラスα
甲種では n の値と変化の対応(n=0 → 定圧、n=1 → 等温 など)が択一・論述で頻出
⚡ 焦点ポイント
甲種では n の値と変化の対応(n=0 → 定圧、n=1 → 等温 など)が択一・論述で頻出。 / 「PVm = 一定のとき m=γ は断熱変化」の対応表を丸暗記するのが最速。
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- n は整数だけでなく実数値をとる。また「ポリトロープ指数 n は 1 < n < γ」という条件を逆に「n < 1 もポリトロープ」と誤解しないこと。
- 甲種では n の値と変化の対応(n=0 → 定圧、n=1 → 等温 など)が択一・論述で頻出
- 「PVm = 一定のとき m=γ は断熱変化」の対応表を丸暗記するのが最速
10. ジュール・トムソン効果
重要度: 乙B / 甲B
🎯 一言で
気体を絞り(細孔)に断熱的に通すと温度変化が起きる。多くの気体は常温で冷却(液化利用)
📖 解説(乙種ベース)
コンプレッサーも冷媒も使わず、気体を小さな穴に押し通すだけで温度が下がる——この一見地味な現象が、気体の液化技術を支えている。気体を細孔(絞り)に断熱的に押し通す操作をジュール・トムソン膨張といい、このとき気体の温度が変化する現象を「ジュール・トムソン効果」という。
まず基準から。理想気体ではジュール・トムソン係数 = 0(温度変化なし)。実在気体では、反転温度(Inversion Temperature)より低い温度域なら膨張によって温度が下がる(冷却効果)。この冷却を利用して気体を液化する(Linde 法など)。
では、どの気体でも冷えるのか? ここに出題者の罠がある。窒素、空気、CO₂は常温・常圧域で膨張により温度低下→液化に利用可。ところがH₂(水素)は常温では反転温度以上なので、膨張でむしろ温度が上昇する(約200 K 以下で冷却)。He(ヘリウム)も反転温度が約40 K と非常に低いため、常温では温度上昇。「膨張=冷える」の直感を水素・ヘリウムで裏切らせるのが定番の手口だ。
もうひとつの試験ポイント。ジュール・トムソン膨張はエンタルピー一定の不可逆変化(エントロピー増加)だ。シリンダーのピストンで仕事をしながらの断熱膨張とは別物——絞りを通す(仕事なし・等エンタルピー)場合だけがジュール・トムソン膨張と呼ばれる。
🟦 甲種プラスα
「H₂は常温で膨張させると温度が上昇する」(反転温度以上なので)は甲種頻出
「ジュール・トムソン膨張は等エンタルピー変化」も甲種頻出
ジュール・トムソン効果(絞り膨張)⚡ 焦点ポイント
「理想気体のジュール・トムソン係数はゼロ」「実在気体では温度変化あり」は正誤問題の定番。 / 「H₂は常温で膨張させると温度が上昇する」(反転温度以上なので)は甲種頻出。
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 「断熱膨張 = ジュール・トムソン膨張」ではない。断熱膨張で仕事をする場合(シリンダーのピストン)と、絞り通過(仕事なし・等エンタルピー)は別物。絞りを通す場合がジュール・トムソン膨張。
11. 熱力学第二法則
💡 図の見方:熱が高温から低温へ移るのは自然に起こるが逆は起こらない(仕事が必要)という方向性と、一つの熱源だけで熱効率100%の機関(第二種永久機関)は不可能という2つの表現を並べた図。エネルギー保存(第一法則)を満たしていても第二法則に反する変化は起きない、という非対称が出題の狙いどころ。
重要度: 乙B / 甲C
🎯 一言で
熱を完全に仕事に変えることは不可能。熱は自然に低温から高温へは移らない。第二種永久機関は不可能
📖 解説(乙種ベース)
ブレーキをかければ、運動はすべて摩擦の熱になる。では逆に、熱を100%仕事に戻せるか? できない——この一方通行を定めるのが熱力学第二法則だ。第一法則(エネルギー保存)だけでは説明できない「変化の方向性」を定める法則である。
表現の仕方は複数あるが、すべて等価だ。(1) 熱を完全に仕事に変えることはできない(一つの熱源から熱を受け取り、他に何も変化を与えずに仕事に変えることは不可能)。(2) 熱は自然には低温物体から高温物体へ移れない。(3) 第二種永久機関(一つの熱源だけを使って熱効率100%で動く機関)は不可能。
冷たいコーヒーが自然に熱くなる——これはエネルギー保存則には違反しない。それでも決して起きないのは、第二法則に違反するからだ。第一法則を満たしていても、第二法則に反するプロセスは自然には起きない。出題者は「仕事→熱は100%変換可能、熱→仕事は100%不可能」という非対称を、第一法則の「熱と仕事は等価」という表現とすり替えて仕掛けてくる。
熱力学第二法則(熱の移動と変換の一方通行)⚡ 焦点ポイント
「熱は自然には低温から高温へ移れない」→ ○(第二法則の表現) / 「熱を完全に仕事に変えることができる熱機関(第二種永久機関)は不可能」→ ○
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 「仕事 → 熱」は100%変換可能だが「熱 → 仕事」は100%不可能(第二法則)。「熱と仕事は等価」という第一法則の表現と混同してはいけない。
12. エントロピー
💡 図の見方:「エントロピーは常に増加する」が保証されるのは左の孤立系の話だと確かめる図。右のように外部へ熱を取り除けば系のエントロピーは減らせるが、そのぶん外界がもっと増えて合計は増大する。この但し書きを外した選択肢が近年の頻出パターン。
重要度: ★ 乙A / 甲A
🎯 一言で
ΔS = Q/T(可逆等温)。状態量で経路によらない。自発変化では常にエントロピーが増大
📖 解説(乙種ベース)
片づけた部屋は放っておくと散らかる一方で、散らかった部屋が勝手に片づくことはない。この「散らかりやすさ」の一方通行を数値化した状態量がエントロピーS——「熱の散らばりやすさ」「乱雑さ」の指標だ。
性質は3つ押さえる。①状態量——経路によらず始状態と終状態だけで決まる。②標準エントロピーは標準状態(101.3 kPa)での値で、T > 0 K では常に正。③孤立系では、自発変化は常にエントロピーが増大する方向へ進む。
「常に増加する」と丸暗記すると足をすくわれる。増加が保証されるのは孤立系の話——外部から熱を取り除けば(冷却・圧縮など)、系のエントロピーを減らすことも可能だ(ただし外界のエントロピーはもっと増える)。
理想気体の各変化での方向も因果で整理しよう。等温膨張は体積↑→エントロピー増加(混乱度が増える)。等温圧縮は体積↓→減少。定圧・定積で温度上昇なら増加。2種類の気体を等温・定圧で混合しても増加(混合エントロピー)だ。
計算例: 水 10 mol を 100℃(373 K)で蒸発させると、ΔS = Q/T = (10 mol × 40.3 kJ/mol) / 373 K ≈ 1.08 kJ/K。Tは必ず絶対温度[K]で代入する。
🟦 甲種プラスα
ΔS = Q/T の計算は甲種・乙種両方で出る
エントロピーが必ず増えるのは孤立系だけ(系と外界)⚡ 焦点ポイント
「エントロピーは状態量」「経路によらない」はR07 Q05で正に出た最頻出問題。 / ΔS = Q/T の計算は甲種・乙種両方で出る。T は必ず絶対温度 [K] を使う。
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 【近年トレンド】 「エントロピーは常に増加する」は孤立系に限った話。外部から熱を取り除けば(冷却・圧縮など)系のエントロピーを減らすことも可能(ただし外界のエントロピーはもっと増える)。
- 「エントロピーは状態量」「経路によらない」はR07 Q05で正に出た最頻出問題
- ΔS = Q/T の計算は甲種・乙種両方で出る
13. 可逆・不可逆過程
重要度: 乙C / 甲C
🎯 一言で
可逆過程:エントロピー変化ゼロ(dS=0)。不可逆過程:エントロピーは必ず増加(dS>0)
📖 解説(乙種ベース)
動画を逆再生しても違和感のない変化と、逆再生すると明らかにおかしい変化がある。コーヒーが冷める、ガスが拡散する——巻き戻せば不自然だ。熱力学はこの違いを可逆過程と不可逆過程として区別する。
可逆過程は、系をある状態から別の状態に変化させた後、外部に何の痕跡も残さずに元の状態に戻せる変化。無限に小さいステップで、常に平衡を保ちながら変化する理想的プロセスで、エントロピー変化はdS = 0だ。ここで注意——「ゆっくりした変化」というイメージは正しいが、「ゆっくり = 可逆」とは限らない。厳密には、常に熱力学的平衡を保ちながら変化することが条件になる。
一方の不可逆過程は、元の状態に戻すことができない(外部に何らかの痕跡が残る)変化。現実の急激な変化、摩擦、混合、熱伝導(有限温度差)はすべて不可逆で、エントロピーは必ず増加する(dS > 0)。自然界のあらゆる変化は不可逆——自発的な変化はエントロピーが増大する方向に進む。前節のジュール・トムソン膨張も不可逆変化だ(エントロピーが増加する)。
🟦 甲種プラスα
甲種では「なぜ不可逆か」を論述させる問題も出る(急激な変化・摩擦・有限温度差が鍵)
⚡ 焦点ポイント
「可逆過程ではエントロピー変化ゼロ、不可逆ではエントロピー増加」の対比を押さえる。 / 「自然に起こる変化はエントロピーが増大する方向へ進む」は第二法則の別表現。
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 「可逆変化 = ゆっくりした変化」というイメージは正しいが、「ゆっくり = 可逆」とは限らない。厳密には常に熱力学的平衡を保ちながら変化することが条件。
14. カルノーサイクルと熱効率
重要度: ★ 乙A / 甲A
🎯 一言で
η = (T₁−T₂)/T₁。高温・低温熱源の温度だけで決まる最大熱効率。これを超える熱機関は存在しない
📖 解説(乙種ベース)
水車が水の落差から仕事を取り出すように、熱機関は温度の落差から仕事を取り出す。では、その落差から絞り出せる仕事に上限はあるのか。答えを与えるのがカルノーサイクル——理想的な可逆熱機関のサイクルで、最大の熱効率を実現する。
サイクルはP–V線図上で閉曲線を描く4つの過程からなる。A→B: 高温熱源T₁との等温膨張(熱Q₁を吸収)→ B→C: 断熱膨張(温度T₁→T₂に低下)→ C→D: 低温熱源T₂との等温圧縮(熱Q₂を放出)→ D→A: 断熱圧縮(温度T₂→T₁に上昇)。出題者は「等温膨張→断熱膨張→等温圧縮→断熱圧縮」の順序や組合せを入れ替えた選択肢を作る——時計回りの流れごと覚えてしまおう。
取り出せる仕事はW = Q₁ − Q₂。熱効率はこうなる。
この式が語るカルノーの定理は3つ。①カルノーサイクルの効率は高温熱源T₁と低温熱源T₂の温度だけで決まる。②同じ熱源間で動くどんな熱機関も、カルノーサイクルの効率を超えることはできない。③熱効率は常に1(100%)未満(第二法則の帰結)。関係式Q₂/Q₁ = T₂/T₁も併せて成り立つ。計算ではTを必ずケルビンで代入すること——℃のまま入れるのが最多の失点だ。
🟦 甲種プラスα
η = (T₁−T₂)/T₁ の計算は甲種・乙種どちらでも最頻出
カルノーサイクルの4過程⚡ 焦点ポイント
η = (T₁−T₂)/T₁ の計算は甲種・乙種どちらでも最頻出。T は必ずケルビン! / 「カルノーサイクルの熱効率は1を超えることはできない」→ ○
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 【注意】 熱効率 = 1 − T₂/T₁ なので T₂ を下げるか T₁ を上げるほど効率が上がる。「低温側を高くするほど効率が上がる」という誤選択肢に注意。T の単位は℃ではなく K で代入すること。
15. ヒートポンプと成績係数(COP)
重要度: 乙C / 甲C
🎯 一言で
逆カルノーサイクル=ヒートポンプ。ε_h = Q₁/W = T₁/(T₁−T₂)。COPは必ず1以上
📖 解説(乙種ベース)
井戸のポンプが仕事を使って低い所から高い所へ水を汲み上げるように、カルノーサイクルを逆向きに動かすと、仕事を使って低温熱源から高温熱源へ熱を汲み上げる装置になる。これがヒートポンプ(暖房機)や冷凍機(冷蔵庫・エアコン冷房)の原理だ。
冷やす側から見た冷凍機の成績係数はε_c = Q₂ / W = Q₂ / (Q₁ − Q₂) = T₂ / (T₁ − T₂)(Q₂:低温側からの吸熱量)。問題文がヒートポンプ(暖房)と冷凍機(冷却)のどちらのCOPを問うているか——Q₁(高温側放熱)かQ₂(低温側吸熱)か——の見極めが第一歩だ。
「消費電力より大きい暖房能力なんてあり得るのか?」と思ったら、熱の流れを追ってほしい。ヒートポンプは仕事Wに加えて、低温側から汲み上げた熱Q₂も高温側へ届ける(Q₁ = Q₂ + W)。だからヒートポンプのCOPは常に1以上(冷凍機COPより1大きい)——消費電力1kWで1kW以上の暖房能力が出せる。電気ヒーターより「高効率」な理由がこれだ。
ヒートポンプの熱の流れとCOP⚡ 焦点ポイント
「逆カルノーサイクルを用いたヒートポンプの COP は必ず1以上」→ 頻出正誤問題。 / 計算:T₁、T₂ が与えられ ε_h を求める → W = Q₁/ε_h で仕事を求める 2 ステップ。
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- ヒートポンプ(暖房)と冷凍機(冷却)でどちらの成績係数を問うているか確認。Q₁(高温側放熱)か Q₂(低温側吸熱)か、問題文の条件を見極める。
16. 自由エネルギーとエクセルギー
重要度: 乙C / 甲C
🎯 一言で
ヘルムホルツ自由エネルギー A=U−TS(等温仕事の上限)、ギブスの自由エネルギー G=H−TS(等温定圧仕事の上限)
📖 解説(乙種ベース)
系が持つエネルギーのうち、実際に仕事として取り出せるのはどれだけか——この「使える分」を勘定する量が自由エネルギーだ。
ヘルムホルツの自由エネルギーはA = U − TS(U:内部エネルギー、T:絶対温度、S:エントロピー)。系が等温変化で外部にできる仕事の最大値は、ヘルムホルツ自由エネルギーの減少量に等しい。
では、大気圧下の化学反応のように等温・定圧の場合は? そこで使うのがギブスの自由エネルギーG = H − TS = A + PV(H:エンタルピー)だ。系が等温・定圧変化で外部にできる仕事の最大値がギブス自由エネルギーの減少量で、大気圧下での化学反応の自発性の判断に使われる(ΔG < 0 なら自発的)。ヘルムホルツ(等温)とギブス(等温・定圧)の使い分けこそ、出題者の狙いどころである。
エクセルギーは、系が外界と異なる温度・圧力を持つとき、外界と平衡に達するまでに取り出せる仕事の最大値。エネルギーの「質」を表す概念で、エネルギー有効利用の評価指標として使われる。乙種はこの一文の暗記で対応できる。
🟦 甲種プラスα
ギブス自由エネルギー G = H − TS の式は甲種では定義問題として出る
「ΔG < 0 のとき反応は自発的に進む」も甲種向け知識
⚡ 焦点ポイント
乙種では「エクセルギーとは系が外界と平衡になるまでに取り出せる仕事の最大値」の一文を暗記すれば対応可能。 / ギブス自由エネルギー G = H − TS の式は甲種では定義問題として出る。
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- ヘルムホルツ(等温変化)とギブス(等温・定圧変化)の使い分けを混同しない。大気圧下の反応では通常ギブス自由エネルギーを使う。
- 乙種では「エクセルギーとは系が外界と平衡になるまでに取り出せる仕事の最大値」の一文を暗記すれば対応可能
- ギブス自由エネルギー G = H − TS の式は甲種では定義問題として出る
17. 熱力学第三法則
重要度: 乙C / 🟦 甲B
🎯 一言で
絶対温度 0 K において純粋な結晶のエントロピーはゼロ。標準エントロピーの基準点
📖 解説(乙種ベース)
温度をどこまでも下げていくと、分子の乱雑さはどうなるのか。答えを与えるのが熱力学第三法則——絶対温度 0 K(−273.15℃)において、不規則な配列のない純粋な結晶物質のエントロピーは 0 である。
この法則の役割は「基準点」だ。第一・第二法則はエントロピーの「変化量」しか決めないが、第三法則が絶対値の原点を与えてくれる。結果として、T > 0 K においてすべての純物質の標準エントロピーは正の値をとる。実験的根拠は、温度を絶対零度に近づけるに従い、固体の熱容量が急速にゼロに近づくこと(ネルンストの熱定理)だ。
出題者の手口は条件外し——「すべての物質は 0 K でエントロピーゼロ」は×だ。「純粋な結晶」という条件が必要で、混合物やガラス(非晶質)はゼロにならない可能性がある。なお、絶対零度には到達できない(第三法則のもう一つの表現)——有限ステップの冷却では 0 K には達しない。
🟦 甲種プラスα
甲種ではネルンストの熱定理や絶対零度到達不可能性の論述が出ることがある
⚡ 焦点ポイント
「0 K で純粋な結晶のエントロピーはゼロ」の一文を正確に暗記する。 / 「不規則な配列のない(完全な秩序)」という条件も含めると完全な表現になる。
📝 誤答パターン(過去問頻出+一般則)
- 「すべての物質は 0 K でエントロピーゼロ」→ × 。「純粋な結晶」という条件が必要。混合物やガラス(非晶質)はゼロにならない可能性がある。
- 「0 K で純粋な結晶のエントロピーはゼロ」の一文を正確に暗記する
- 「不規則な配列のない(完全な秩序)」という条件も含めると完全な表現になる
🔢 計算問題のための準備
絶対温度の変換: T[K] = t[℃] + 273
気体定数: R = 8.314 J/(mol·K)
熱量の単位: 1 kJ = 1000 J、1 kcal = 4.18 kJ
典型計算式:
– 熱力学第一法則: ΔU = Q − W
– 顕熱: Q = m × c × ΔT
– 潜熱: Q = m × L (Lは潜熱)
– カルノー熱効率: η = (T1 − T2)/T1 (絶対温度Kで計算)
計算問題で失点する最大の原因は単位ミス。代入前に「絶対圧か?」「絶対温度か?」「単位は揃っているか?」を必ず確認。
🧮 計算例題(過去問を解き切る)
この章の内容が本試験でどう問われるか、実際の過去問で「立式→計算→答え」まで通しで確認しましょう。まず自分で解いてから「解き方をみる」を開くのがおすすめです。
容積一定の断熱された容器に入れた温度30℃の空気1kgを、56kJの熱を加えて温めた。加熱後の空気の温度(℃)として、最も近い値はどれか。ただし、空気の定積比熱容量は、Cv=0.7kJ/(kg・K)とする。
(1) 70 (2) 80 (3) 90 (4) 100 (5) 110 [℃]
▶ 解き方をみる(まず自分で立式してから!)
- 容積一定なので定積比熱Cvを使う: Q=m×Cv×(T₂−T₁)
- T₁=30+273=303K として 56=1×0.7×(T₂−303)
- T₂−303=56÷0.7=80
- T₂=383K=383−273=110℃
✅ 答え: (5) 110℃
⚠ よくあるミス: 定積比熱Cvでなく定圧比熱Cpを使う/℃のまま代入してしまう
カルノーサイクルにおいて、高温熱源から700Jの熱を受け取り、低温熱源に200Jの熱を放出して仕事を取り出した。このときの熱効率(%)として、最も近い値はどれか。
(1) 10 (2) 30 (3) 50 (4) 70 (5) 90 [%]
▶ 解き方をみる(まず自分で立式してから!)
- 熱効率の定義: η=(受け取った熱−捨てた熱)÷受け取った熱=(Q₁−Q₂)/Q₁
- η=(700−200)÷700=500/700
- η≒0.714=71.4% → 最も近い値は70%
✅ 答え: (4) 70%
⚠ よくあるミス: 分子と分母を取り違える/%への変換を忘れる
🗒️ 3分で復習(章末まとめ)
🎯 全節 一言まとめ
- 節1 系と状態量(孤立系・閉鎖系・開放系): 熱力学が扱う「系」の3分類と、状態量(経路によらず現状態だけで決まる量)の概念を押さえる
- 節2 熱力学第一法則と仕事: エネルギー保存則。ΔU = Q − W(吸収熱 − 外部への仕事)。定圧仕事 W = P(V₂−V₁)
- 節3 内部エネルギー: 系が保有するエネルギーの総量。状態量であり、温度・圧力の関数。変化量 ΔU = Q − W
- 節4 エンタルピー: H = U + PV。定圧変化での熱の出入り=エンタルピー変化。化学反応(大気圧下)に便利
- 節5 反応熱・ヘスの法則: 反応熱は経路によらず始状態と終状態だけで決まる(ヘスの法則)。温度依存性あり(キルヒホッフ)
- 節6 熱容量(Cp・Cv・比熱比γ): Cp > Cv(常に成立)、Cp = Cv + R(理想気体)、γ = Cp/Cv(比熱比・断熱指数)。乙・甲 最重要
- 節7 等温変化: 温度一定 → PV=一定(ボイル則)。理想気体の内部エネルギー変化ゼロ → Q=W(熱がすべて仕事に)
- 節8 断熱変化: 熱の出入りゼロ(Q=0)。PVγ=一定。膨張で温度低下、圧縮で温度上昇。断熱指数γが鍵
- 節9 ポリトロープ変化: PVⁿ=一定(1
等温(n=1)と断熱(n=γ)の中間。実際の気体変化の一般形 - 節10 ジュール・トムソン効果: 気体を絞り(細孔)に断熱的に通すと温度変化が起きる。多くの気体は常温で冷却(液化利用)
- 節11 熱力学第二法則: 熱を完全に仕事に変えることは不可能。熱は自然に低温から高温へは移らない。第二種永久機関は不可能
- 節12 エントロピー: ΔS = Q/T(可逆等温)。状態量で経路によらない。自発変化では常にエントロピーが増大
- 節13 可逆・不可逆過程: 可逆過程:エントロピー変化ゼロ(dS=0)。不可逆過程:エントロピーは必ず増加(dS>0)
- 節14 カルノーサイクルと熱効率: η = (T₁−T₂)/T₁。高温・低温熱源の温度だけで決まる最大熱効率。これを超える熱機関は存在しない
- 節15 ヒートポンプと成績係数(COP): 逆カルノーサイクル=ヒートポンプ。ε_h = Q₁/W = T₁/(T₁−T₂)。COPは必ず1以上
- 節16 自由エネルギーとエクセルギー: ヘルムホルツ自由エネルギー A=U−TS(等温仕事の上限)、ギブスの自由エネルギー G=H−TS(等温定圧仕事の上限)
- 節17 熱力学第三法則: 絶対温度 0 K において純粋な結晶のエントロピーはゼロ。標準エントロピーの基準点
⚡ 全節 焦点ポイント
- 節1: 「エントロピーは状態量か、経路関数か?」は超頻出の正誤問題(→状態量が正解)。 / 孤立系・閉鎖系・開放系の定義は選択問題の選択肢として丸ごと出題されることがある。
- 節2: 乙種の計算問題頻出パターン:定積加熱(W=0 → Q=ΔU=mC_v ΔT)。 / 「定積変化では外部への仕事はゼロである」は毎年出る正誤問題の定番表現。
- 節3: 「内部エネルギーは状態量」「経路によらない」は正誤問題の頻出文言。 / 「定積変化では Q = ΔU」の関係を素早く使えるように。
- 節4: 「定圧加熱では供給熱 = エンタルピー増加量」は正誤問題の定番文言。 / 甲種では ΔH = ΔU + Δn・RT の計算問題が出る(例:CO の燃焼熱変換)。
- 節5: 「反応熱は経路によらない(ヘスの法則)」→ ○ / 「反応熱は温度によらず一定」→ × (キルヒホッフで変化する)
- 節6: 「定圧モル熱容量は定積モル熱容量より常に大きい」は毎年出る正誤問題。 / 定積加熱の計算:Q = mCvΔT → ΔT = Q/(mCv) の変形が最頻出。
- 節7: 「等温変化では内部エネルギーは変化しない(理想気体)」は正誤問題の定番。 / 「等温下での加熱は全て外部への仕事に使われる」という表現も頻出。
- 節8: 「断熱膨張 → 温度低下」「断熱圧縮 → 温度上昇」は毎年出る正誤問題。 / PVγ = 一定 の式形と、等温(PV=一定)との区別を P–V 線図で確認しておく。
- 節9: 甲種では n の値と変化の対応(n=0 → 定圧、n=1 → 等温 など)が択一・論述で頻出。 / 「PVm = 一定のとき m=γ は断熱変化」の対応表を丸暗記するのが最速。
- 節10: 「理想気体のジュール・トムソン係数はゼロ」「実在気体では温度変化あり」は正誤問題の定番。 / 「H₂は常温で膨張させると温度が上昇する」(反転温度以上なので)は甲種頻出。
- 節11: 「熱は自然には低温から高温へ移れない」→ ○(第二法則の表現) / 「熱を完全に仕事に変えることができる熱機関(第二種永久機関)は不可能」→ ○
- 節12: 「エントロピーは状態量」「経路によらない」はR07 Q05で正に出た最頻出問題。 / ΔS = Q/T の計算は甲種・乙種両方で出る。T は必ず絶対温度 [K] を使う。
- 節13: 「可逆過程ではエントロピー変化ゼロ、不可逆ではエントロピー増加」の対比を押さえる。 / 「自然に起こる変化はエントロピーが増大する方向へ進む」は第二法則の別表現。
- 節14: η = (T₁−T₂)/T₁ の計算は甲種・乙種どちらでも最頻出。T は必ずケルビン! / 「カルノーサイクルの熱効率は1を超えることはできない」→ ○
- 節15: 「逆カルノーサイクルを用いたヒートポンプの COP は必ず1以上」→ 頻出正誤問題。 / 計算:T₁、T₂ が与えられ ε_h を求める → W = Q₁/ε_h で仕事を求める 2 ステップ。
- 節16: 乙種では「エクセルギーとは系が外界と平衡になるまでに取り出せる仕事の最大値」の一文を暗記すれば対応可能。 / ギブス自由エネルギー G = H − TS の式は甲種では定義問題として出る。
- 節17: 「0 K で純粋な結晶のエントロピーはゼロ」の一文を正確に暗記する。 / 「不規則な配列のない(完全な秩序)」という条件も含めると完全な表現になる。
📛 頻出ひっかけ・誤答パターン(過去問の実データ 22件分析)
この章で実際に出題された誤り選択肢を類型化しました。傾向:正負・方向の逆転13件 / 数値の取り違え4件 / 用語のすり替え3件 / 定義の混同2件。
- 正負・方向の逆転(基R7問4)
誤】最小の仕事
正】最大 - 数値の取り違え(基H30問5)
誤】高温熱源: 1000K, 低温熱源: 400K
正】(1)の組合せ - 用語のすり替え(基R7問4)
誤】カルノーサイクルは、ヒートポンプで利用される
正】逆カルノーサイクルは - 定義の混同(基R1問3)
誤】同じである
正】物質1kgあたりの熱容量と1molあたりの熱容量は異なる - 正負・方向の逆転(基R7問4)
誤】不可逆なサイクル
正】可逆 - 数値の取り違え(基H30問5)
誤】高温熱源: 1200K, 低温熱源: 600K
正】(1)の組合せ - 用語のすり替え(基R7問4)
誤】2つの等圧過程
正】等温 - 定義の混同(基H29問3)
誤】系のエントロピーは一定に保たれる
正】ジュール・トムソン膨張では系のエントロピーは増加する。一定に保たれるのはエンタルピーである - 正負・方向の逆転(基R7問5)
誤】その途中の経路に依存する
正】その途中の経路に依存しない - 数値の取り違え(基H30問5)
誤】高温熱源: 1400K, 低温熱源: 700K
正】(1)の組合せ - 用語のすり替え(基H30問5)
誤】等温膨張→等温圧縮→断熱圧縮→断熱膨張
正】カルノーサイクルは等温膨張→断熱膨張→等温圧縮→断熱圧縮の順で繰り返すサイクルである
📝 関連過去問
この章の知識が問われる過去問題リスト(全44問)。
ℹ️ 乙種・甲種は別の試験です。同じ問番号(例: 基問10)であっても、乙種と甲種では出題される問題内容は異なります。各年度・種別ごとの本文は 乙種過去問 / 甲種過去問 ページから確認してください。
乙種(24問)
– 令和7年: 基問3 / 基問4 / 基問5 / 基問6
– 令和6年: 基問3 / 基問4 / 基問5
– 令和5年: 基問3 / 基問4 / 基問5
– 令和4年: 基問5 / 基問6
– 令和3年: 基問5 / 基問6 / 基問7
– 令和2年: 基問6 / 基問7
– 令和元年: 基問6 / 基問7
– 平成30年: 基問6 / 基問7
– 平成29年: 基問5 / 基問6
– 平成27年: 基問4
甲種(20問)
– 令和7年: 基問3 / 基問4
– 令和6年: 基問3 / 基問4
– 令和5年: 基問3 / 基問4 / 基問5
– 令和4年: 基問5 / 基問6
– 令和3年: 基問5 / 基問6 / 基問7
– 令和2年: 基問6 / 基問7
– 令和元年: 基問6 / 基問7
– 平成30年: 基問6 / 基問7
– 平成29年: 基問5 / 基問6
いま、学習で困っていることを教えてください
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